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『 脱兎!勢 』 (2023-06-07 09:47 更新)

(前項参照)(初出)

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参照:「 塩 キャベ 丼 」https://lanobe.jp/novel/f77b5d70c7ade0e897762adaed52519c/episode/9eb303a2e1559c7150a96e786dc7a095

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『 脱兎!勢 』


        ◆

 

 

 なにしろ空前絶後の大不況である。

 庶民は困窮して貧苦にあえぎ、

 貧民は職も住居も失い。

 

 数日にわずか一食、ありつけるかどうか…という

 配給食をもとめて、長い長い、常時数千人に上ると推察される、

 行列に、とぼとぼ並び…

(あるいは、その途中で、飢餓と病に斃れ…)

 

 善意の、救貧ボランティアたちは。

 落涙して私財をなげうち、あるいは自宅を質に入れてまで…

 その資金を維持しようとは、務めたが。

 ついにはおのれが自己破産して。

 ともに路上に並ぶしかない…

 という窮状に追い込まれるしまつ。

 

 世は暗澹として。

 ひかりのかけらも、見えない状態だった…

 

 

        ◆

 

 

 だというのに。

 また、増税? かよッ?!

 

 しかも、他国へ侵略戦争をする… その、軍資金? だと…ッ??

 

 …誰かがネット上で書いた、「つくづく性根の腐った政府やつら

 

 …いや、ここは【 性 腐 】と書くべきだッ! 」

 

 という当て字が、嗤いと慨嘆とともに流行ったりも、したが。

 

 むろん、そんなこと、一時の気晴らしにしかならず…

 腹の足しには、ならない。

 

 

        ◆

 

 

 すべての現金、つまり流通していた紙幣と硬貨の使用が、ほぼ突然、禁止され。

 ごくごく短い周知期間の間に、慌てて最寄りの金融機関に入金、することが間に合わなかった分は。

 後日、これまたごく短い受付期間のみ、限定で…

 政府公認の指定私企業のみが、不当にばか高い手数料を徴収した上で、『電子数値化』を行える、とされた。

 

 すべての商取引は、明確に記録が残る電子決済のみ、許可され。

 すべての商取引の電子決済に際して、使用が許可されるのは、法定公認企業の電子通貨のみ、となされた。

 むろん、その他の仮想通貨発行機関は、すべて非公認の【違法企業】と勝手に指定され。

 ばか高い転換費用を払って仮想試算を法定企業に『預金』させられたうえで…

 強制解散。という憂き目を、みたのである。

(むろん、海外通貨に換金して、企業の主だったメンバーもすべて慌ただしく出国する、という動きがあったが。

 取り残された従業員や家族や資産は、どんぞこの辛酸をなめるはめになったのである…)

 

 

        ◆

 

 

 すべての商取引に対して『法定電子通貨決済利用税』が課された。

 それがまだ、0.1%…から始まった時には、反対の声も、それほど大きくなかった。

 しかしもちろん、あっという間に。

 1%、3%、5%、8%、10%…と、増税されて。

 ばたばたと企業は倒産していき。

 失業者がさらに路上にあふれ。

 20%、に、来月から上がるぞ。と、例によって一方的な通達が出された時には…

 抗議の焼身自殺、なども含めて。

 さすがに、暴動に近い抗議行動が沸き起こったが。

 時すでに遅し。

 すっかり、【軍事独裁政権】への退嬰を果たしていた【性腐】は…

 暴力的弾圧をもって、短時日に逮捕・投獄・粛清…を、したのである。

 

 

        ◆

 

 

 中間層の小金持ちたちは、必死で海外へ逃げた。

 しかし、ほとんどの庶民は…

 亡命も、焼身自殺も、できるわけがなかった。

 家族が、いるのである…。

 

「 こうなったら、商取引に電子決済を、利用しない! 」という、決意宣言が。

 

 むろん、【 性腐 】の監視下にある、という、恐怖をすら打ち消す怒りの強さで…

 ネット上に、あふれた。

 

「 物々交換 だ! 」

 

 

        ◆

 

 

「 家族が飢えてます! 食糧ください! 働きます! 」

 

 まずは、労働力⇔食糧! というのが、一番切実な交換事案だった。

 インフレが切実すぎて、何がいくらで買えるのか?

 その相場? すらも、もはや判らない状況だったが…

 

「 野菜あるよ! 収穫手伝ってくれ! 」

 

 などの書き込みは、すぐにたくさん並んだ。

 

「 そこまで移動手段がありません! 」

「 運ぶよ! 燃料プラス飲料水と交換! 」

「 その燃料と飲料水、だれか下さい! 働きます! 」

「 それ出すから、荷運び手伝って! 」

 

 性的サービスや女身売買を要求する書き込みも多く…

 世論は、「よそでやれ!と、がんがん叩いて、専用サイトへと追い出した。

 

「 在庫の衣料品あげます! 次を生産する素材をどなたか! 」

「 こどもの肌着ある? おむつも切実に欲しいんですけど! 包材ならあるんですけど! 」

「 だれか塩ないですか? 砂糖あげます! 」

 

 物々交換!を希望する書き込みは、凄まじい勢いで乱立し。

 当然ながら、騙したの盗まれたのと、トラブルもあいついだ。

 親切な誰かたちが、無償で交換交渉サイトを立ち上げ。

 項目別、地域の近い別に。

 欲しいもの、

 提供できるもの、

 交換場所、

 交換方法、

 などが、明文化され、効率化、されていった。

 

 

        ◆

 

 

「 A市 ⇔ B町 の間! 燃料+家族の人数分の弁当で! 軽トラ一杯までの荷物、日帰り往復で運びます! 」

 

 的な、案件も多く。

 

「 一軒一軒集荷してたら大変だろ?

 うちの空倉庫、集荷場所に無償で提供するよ!

 電気代が払えないから、無灯火だけど! 」

 

「 あ、太陽光発電機、貸しますよ! 」

 

 …などという動きが集約されて、物々交換&集配ルートができ。

 守るべき倫理ルールが成文化され、トレードマークが描かれ。

 

『 居眠り禁止 ! 』と、添え書きされたウサギが。

 

 【 性腐 】の、懲罰的取り締まり組織を擬したノロマな亀から逃げて走る…

 

 愛称を、『 脱兎!勢 』と、決められた。

 

 

        ◆

 

 

 むろん、【性腐】は即座に、『脱税行為だ!』と介入してきたが。

 

「 カネ使ってないんだから、脱税じゃない! 」と、世論の圧倒的な炎上のもとに、黙殺された。

 

 

        ◆

 

(のちに、『反皇勢力』と呼ばれる動きに集約されていく…

 『禁未来死』の、影エピソード群です。)

 

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清貧上等!
『 E. E. E. 』 … Economic Ecological Energy …
霧樹 里守 (きりぎ・りす)
空想科学
文量:軽め / 連載中 全1話
2023-06-07 09:47 更新
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